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糖尿病三大合併症は順番に発症する?予防法や治療も解説
糖尿病の合併症とは、糖尿病が原因で発症する別の病気のことをいいます。
いくつかある合併症の中でも、「糖尿病性神経障害」「糖尿病性網膜症」「糖尿病性腎症」は発症率が高く、三大合併症と呼ばれていることをご存じでしょうか。
症状が現れるころには病状が進行し、手遅れになる場合もあります。
本記事で合併症への理解を深め、予防に努めましょう。
糖尿病の合併症はなぜ起こる
合併症が起こるのは、糖尿病で血糖値が高い状態が続くことが原因です。
糖が多くドロドロになった血液は血管をもろくさせ、全身の臓器や器官に影響を及ぼします。
血管がもろくなるのは、血液中の糖の濃度が高くなることによって活性酸素が発生するためです。
活性酸素は血管を損傷したり詰まらせたりして、血管を破壊させます。
影響は太い血管よりも細い血管から出始めます。
三大合併症は神経、目、腎臓といった細い血管が集中している場所のため影響を受けやすく、発症率が高くなるのです。
合併症の原因は高血糖状態が続くことですので、血糖値を正常に維持できれば予防できます。
糖尿病をしっかりと治療することが大切なのです。
糖尿病の三大合併症「しめじ」
三大合併症の神経障害、網膜症、腎症は、それぞれ「しんけい」「め」「じんぞう」の症状であることから、頭文字をとって「しめじ」と呼ばれています。
症状が起こるのも「しめじ」の順番です。
神経障害、網膜症、腎症の順で悪くなっていくケースが多いといわれています。
三大合併症は、糖尿病が進行することによって発症します。
合併症の症状を感じたときにはすでに悪化していて、元の健康な状態へ戻るには難しい場合があるため注意しなければなりません。
合併症は気がつかないうちに起こり、自覚症状のないまま悪化して数年~10年程度で症状が現れることが多いのです。
そのため、「しめじ」の語呂合わせで糖尿病患者へ注意喚起されています。
次の項目から三大合併症の症状を解説していきますので、一つずつ確認していきましょう。
神経障害
神経障害は、末梢神経に障害が起こる病気です。
末梢神経は大きく3つに分けられます。
・触れた感触や温度を感じる「感覚神経」
・血圧や内臓の働きを調整する「自律神経」
・手足を動かす「運動神経」
初期症状としては足先のしびれやこむら返りが代表的で、左右の足で同じタイミングに起こることが多いといわれています。
進行してくると、自律神経の障害による消化器症状や発汗異常、運動神経の障害による筋力低下で歩きにくくなるなどの症状が現れます。
重症化すると痛みなどの刺激を感じなくなり、傷ができても放置してしまう恐れがあるため注意が必要です。
末梢神経は全身に広がっているため、体のいろんな部位に影響がでてきます。
三大合併症の中でもっとも発症する人が多い合併症のため気をつけましょう。
網膜症
網膜症は、目の網膜が損傷を受け、視力が低下する病気のことです。
網膜には細かく血管が張り巡らされており、高血糖が続くことで血管が損傷を受け、酸素が行き渡らなくなることで発症します。
発症初期は小さく出血が起こっているものの、自覚症状がありません。
進行するにつれて網膜の毛細血管が詰まり、視界がかすむなどの症状が現れ始めます。
末期になると網膜の酸素不足を補うために新しい血管が伸びるようになりますが、新しい血管はもろいため、破れて出血が起こります。
その影響で視力低下や飛蚊症の症状が起こり、最悪の場合には失明に至る場合もあるのです。
網膜の異常は、眼底検査で調べることができます。
初期の段階で気がつければ治癒できる可能性があるため、定期的な眼科受診が大切です。
腎症
腎症は腎臓の機能が低下する病気です。
腎臓には、糸球体という毛細血管の集合体があります。
糸球体は血液を濾過して尿をつくり、体外に排出する器官です。
糖尿病によって糸球体が傷つくと、老廃物や水分が体内に溜まるようになってしまいます。
初期は自覚症状がありません。
しかし尿検査で微量のタンパク尿が検出されたり、血圧の上昇がみられます。
この時点では、血糖値の正常化によって腎臓の機能を改善できる段階です。
発症に気がつかず状態が進行していくと、むくみや倦怠感、貧血などの症状が現れます。
体内には老廃物が溜まり、腎臓の機能改善は難しくなっていきます。
最終的に透析療法が必要になるため、初期の段階で血糖値を改善することが重要です。
腎症は症状がでていなくても尿検査で発見できます。 定期的な検査を必ず受けましょう。
糖尿病の合併症「えのき」
注意が必要な合併症は「しめじ」の他に「えのき」があります。
「えのき」は壊疽(えそ)、脳梗塞、虚血性心疾患のことで、それぞれの頭文字をとった名称です。
どれも太い血管での動脈硬化が原因で起こります。
「しめじ」は糖尿病が進行して発症する合併症ですが、「えのき」は糖尿病と診断を受けていない人でも、高血糖の状態であれば発症する恐れがあります。
「えのき」は突然死や、助かったとしても後遺症の残る場合もある深刻な合併症です。
糖尿病でなくても、血糖値が高めの人は発症リスクがあるため、以下の解説を参考にしてください。
壊疽
壊疽は手足の先まで血液が届かず、組織が腐って皮膚が緑黒くなることです。
壊疽が起こる原因は2つあります。
1つは動脈硬化によって血管内が狭くなり、栄養や酸素が先まで届かなくなること。
もう1つは神経障害によって傷の痛みを感じないために手当てが遅れることです。
壊疽は突然発症するものではありません。
靴擦れや、やけどなどの傷ができても治療せず、放置することによって傷口が細菌に感染して壊疽になります。
痛みを感じないからと放っておいてしまうと重症化し、薬剤では対処できず切断という選択肢しかなくなってしまいます。
とくに足先は発見が遅れることが多いため、毎日観察する習慣をつけることや、小さな傷でもしっかりと手当することが大切です。
脳梗塞
脳梗塞は脳の血管が詰まり、脳細胞が死んでしまうことです。
血流が途絶えることで栄養や酸素が行き届かなくなり、脳細胞が死滅します。
脳梗塞の症状は、手足の片側だけ動かしにくい、言語障害、意識障害などです。
発症してすぐであれば、治療によって脳の機能を回復できる可能性があります。
脳梗塞かもしれないという症状を感じたら、ただちに医療機関を受診してください。
糖尿病の人は、糖尿病のない人と比べて2~4倍も脳梗塞のリスクがあるといわれています。
脳梗塞は命が助かったとしても、後遺症が残る可能性がある怖い病気です。
異常を感じたときの早めの救急対応を心がけておきましょう。
虚血性心疾患
狭心症や急性心筋梗塞をまとめて虚血性心疾患といいます。
どちらも、心臓に血液が行き渡らなくなることで発症する病気です。
狭心症は心臓の筋肉への血液供給が少なくなることで、一時的な胸の痛みや圧迫感といった症状が起こります。
動脈硬化によって血管の柔軟性が失われ、血管が狭くなることが原因です。
一方、急性心筋梗塞は心臓の血管が詰まってしまい、血液が届かなくなった状態です。
詰まった先に血液が送られず、細胞が死んで機能しなくなることから狭心症よりも危険といわれています。
狭心症は数分程度の一時的な痛みですが、急性心筋梗塞は30分以上も胸の痛みが続きます。
命にかかわる重大な病気のため、異常を感じたら速やかに医療機関を受診しましょう。
糖尿病によるその他の合併症
糖尿病の人は感染症にも注意してください。
血糖値の高い状態は、感染症にかかりやすい状態を作り出します。
免疫反応や白血球の働きが低下して感染症にかかりやすく、悪化しやすくなるのです。
また血流が悪いために、全身に十分な酸素や栄養が行き届かないことも影響しています。
具体的な疾患としては、歯周病や尿路感染症、皮膚の感染症、肺炎などです。
細菌やウイルスの感染に注意が必要なため、インフルエンザワクチンなどの予防接種も勧められています。
糖尿病の影響は血管を通して全身に現れます。
異常にすぐ気がつけるよう、体に変化がないか日頃から気にかけるようにしましょう。
糖尿病の合併症を予防するには
糖尿病の治療と検査をしっかりおこないましょう。
合併症は、糖尿病を治療して血糖値を正常化することで予防できます。
また、定期的に合併症の検査を受けることで早期発見できれば、治癒できる可能性もあります。
合併症の検査は、血液検査や尿検査だけではありません。
眼底検査、アキレス腱反射などの神経障害の検査、超音波検査による動脈硬化の検査など、多岐に渡ります。
面倒と思わずに、積極的に受けましょう。
医療機関の設備によっては実施できない検査もありますので、医師に相談してみてください。
たとえ自覚症状が出ていなくても、治療と検査を続けることが大切です。
糖尿病の合併症の治療
合併症の治療は、血糖コントロールが最も重要です。
血糖コントロールとは、血糖値を正常に維持することをいいます。
合併症を発症する原因となった糖尿病を治療し、血糖コントロールによって高血糖が改善されれば、合併症を治癒したり、悪化を防ぐことができるのです。
合併症によっては、血糖コントロールに加えて薬剤を使用します。
神経障害や網膜症は症状の進行度に合わせた薬剤があり、進行を止めたり症状を和らげることが可能です。
腎症は直接的に治療する薬はないものの、糖尿病の治療や生活習慣の改善で悪化は抑えられます。
壊疽や脳梗塞など、取り返しのつかない合併症を防ぐためにも血糖コントロールは必要です。
発症の原因となった血糖値を改善することが、治療の第一歩になります。
まとめ
糖尿病の三大合併症についてここまでの解説をまとめました。
- 糖尿病の三大合併症は神経障害、網膜症、腎症のこと
- 神経障害➝網膜症➝腎症の順に発症することが多い
- 合併症の予防や発症後の悪化を防ぐには、血糖コントロールが重要
予防や早期治療のためにも、定期的に検査を受けましょう。
また異常にすぐ気がつけるよう、体に変化がないか観察する習慣をつけることも大切です。
Q&A
糖尿病の合併症についてよくある質問にお答えしていきます。
Q.糖尿病の三大合併症はいつから起こる?
A. 合併症は糖尿病の可能性があるときや、糖尿病初期から始まっているといわれています。
数年~10年程度たったときに症状として現れてくるのです。
具体的な時期としては、神経障害や網膜症は糖尿病になって5~10年たったころ、腎症は10~15年たったころに症状がでてきます。
合併症は進行性のため、気がつかないうちに引き起こし、自覚症状ないまま悪化します。
しっかりと血糖管理をおこなっている人は合併症を発症しにくく、悪化もしづらいことがわかっています。
糖尿病を早い段階からきちんと治療することが合併症の発症を防ぐために大切です。
Q.糖尿病の三大合併症は治る?
A. 合併症は早期に発見できれば、治癒できる可能性があります。
初期の段階であれば、血糖値を正常化するだけで改善できるケースが多くあるのです。
合併症は自覚症状がでるころには進行していることが少なくありません。
進行した後では、完治するための治療ではなく、悪化を防ぐことを目的とした治療になります。
そのため「合併症は予防が大事」といわれているのです。
合併症は発症しても血糖管理や服薬で悪化を防ぐことができます。
血糖値の高い状態は合併症の進行を進めてしまいますので、糖尿病をしっかりと治療しましょう。
Q.糖尿病の合併症でがんになる?
A. がんは糖尿病の合併症と考えられています。
糖尿病のない人に比べて1.2倍がんになりやすく、予後も悪いためです。
がんになりやすい理由は、高インスリン血症によるがん細胞の発生や増殖が原因と考えられています。
高インスリン血症とは、血液中のインスリン濃度が高い状態のことです。
インスリンの働きが弱くなると、血糖値を下げるために膵臓からインスリンがより多く分泌されます。
インスリンは血糖値を下げるだけでなく、細胞を増殖させる作用があるため、がん細胞の発生や増殖を促していると考えられているのです。
また糖尿病の影響で活性酸素が過剰になり、DNAにダメージを与えることも可能性の一つといわれています。
糖尿病だけの検査だけでなく、がん検診も定期的に受けると良いでしょう。