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メトホルミンによる低血糖について知ろう
メトホルミンの血糖値を下げる作用により、特定の状況下において低血糖を起こすことがあります。
ただし、他の糖尿病薬に比べればそのリスクは低く、万が一低血糖が起こったとしてもすぐに対処すれば症状はしっかり改善します。
そこでこの記事では、メトホルミンを服用している、または服用したいけど低血糖が心配という人に向けて、メトホルミンによる低血糖について解説していきます。
低血糖が起こる原因や初期症状、対処法などを詳しく紹介していますので、ぜひ最後までご覧ください。
メトホルミンによる低血糖は糖質不足が原因
メトホルミンによる低血糖が起こる大きな原因は糖質不足です。
定義は決まっていませんが、多くの場合血糖値が70㎎/dL以下であれば低血糖とされます。
以下の表は、正常な時の血糖値をまとめたものです。
空腹時 | 食後 | |
---|---|---|
正常な血糖値 | 70-99㎎/dL | 70-140㎎/dL |
この表から、低血糖とされる時の血糖値は空腹時以下であることがわかりますね。
つまり、もともと血糖値が下がっている空腹時にメトホルミンを飲んだりすると、メトホルミンの作用によってさらに血糖値が下がり、低血糖が起こってしまうのです。
ただ、メトホルミンはほかの糖尿病薬に比べて副作用が少なく低血糖も起こりにくいといわれているため、糖質をしっかり取れていれば心配しすぎる必要はありません。
メトホルミンを飲むと低血糖になる可能性がありますが、糖質不足が原因であるため、メトホルミン服用中は血糖値が下がりすぎないよう注意して過ごしましょう。
では、糖質不足を防ぐには具体的にどのような対策をすればよいのでしょうか?
次項で詳しく解説していきます。
過度な糖質制限は危険
メトホルミンを飲んでいる時の過度な糖質制限は、糖質不足につながり低血糖の原因となるため危険です。
メトホルミンで血糖値を下げている状態の時に過度な糖質制限を行ってしまうと、体内の糖が少なくなりすぎてしまうのです。
メトホルミンを飲んでいる期間は、いきなり大きく糖質量を減らすことは避けましょう。
ちなみに、最低でも1日70~100gは糖質を摂取することが必要だとされています。
白米1杯分(150g)の糖質量が約55gなので、1日に1.5~2杯ほど食べれば十分に摂取することができます。
メトホルミンを飲んでいる期間の過度な糖質制限は危険です。
糖質不足を避けることが低血糖の予防になりますので、必要な分の糖質はしっかりと摂取しましょう。
メトホルミンによる低血糖の症状
低血糖の症状の現れ方には個人差がありますが、一般的には以下の症状がみられます。
血糖値 | 症状 | |
---|---|---|
70-60mg/dL | 自律神経症状 | 冷や汗、動悸、手や指の震え、顔面蒼白、強い空腹感、脈が速くなる |
30mg/dL | 中枢神経症状 | 強い脱力感、疲労感、眠気、あくび、めまい、集中力の低下、頭痛 |
30mg/dL以下 | 大脳機能低下 | 意識が朦朧とする、異常行動、意識がなくなる、気を失う、けいれん、深い昏睡 |
初期症状は強い空腹感、手足の震え、冷や汗などで、進行していくと脱力感やめまいが起こり始めます。
そしてそのまま対処せず放置していると、意識障害や昏睡を引き起こします。
低血糖は、多くの場合血糖値が下がるにつれて体がだるいなどの症状が現れてくるため、早い段階で自覚できることが多いです。
ただし、低血糖を繰り返している人や、幼児・高齢者ではこれらの症状が現れないことがあります。
いきなり意識障害や昏睡、けいれんなどを起こす可能性があるので、家族や周囲の人が注意して様子を見ておきましょう。
メトホルミンによる低血糖は、個人差はあるものの自覚できる症状から起こります。
初期症状の段階できちんと対処し、重症化を防ぎましょう。
メトホルミンによる低血糖の頻度
メトホルミンによる低血糖が起こる確率は、約5%とされています。
全ての人が低血糖を起こすわけではありませんが、「もしかしたら」をしっかりと念頭に置いておきましょう。
また、自転車や自動車の運転中、高所作業中などに低血糖の症状が起こると、手や指の震え、めまいなどにより、重大な事故につながる可能性があります。
初めてメトホルミンを飲む時は、機械の操作や車の運転を控えましょう。
とはいえ、正しい飲み方を守っていれば、メトホルミンが原因で低血糖を引き起こすことはほとんどありません。
メトホルミンによる低血糖が起こりやすくなる原因
メトホルミンによる低血糖が起こりやすくなる原因は以下の通りです。
①飲むタイミングや飲み方に誤りがある
②シックデイや食事しない時にメトホルミンを飲んだ
③メトホルミンと他の医薬品を併用した
④過度のアルコール摂取
また他にも、高齢者や体調が優れない時、激しい運動を行った時も、メトホルミンによる低血糖が起こりやすいとされています。
低血糖を予防するためには、なぜ症状が起こるのかを理解した上で、それぞれに対しきちんと対策を行うことが大切です。
そこで、次項からは上記の原因について順番に詳しく解説していきます。
メトホルミンを飲む時にぜひ参考にしていただき、低血糖のリスクを最小限に抑えてください。
①飲むタイミングや飲み方に誤りがある
メトホルミンを誤った方法で飲むと低血糖のリスクが高まります。
以下にメトホルミンを飲む上での注意点をまとめました。
・メトホルミンの1日の最大摂取量は1日2250㎎まで
・1度に2回分のメトホルミンを飲んではいけない
1日に最大摂取量を超える量を飲んだり、1度に多くの量をいきなり飲んだりすると、メトホルミンの血糖値を下げる作用が効きすぎてしまい低血糖が起こりやすくなってしまうのです。
なお、メトホルミンによる低血糖が心配な場合、メトホルミンの飲むタイミングを食後にすることがおすすめです。
胃に食べ物が入っている状態で飲むことでメトホルミンの吸収スピードが遅くなるため、低血糖を含む副作用が起こりにくくなります。
ただし、食後は飲み忘れが多いタイミングでもあるので、食事と一緒にメトホルミンを準備しておくなどの工夫をしましょう。
メトホルミンを誤った方法で飲むことで、低血糖のリスクは高まります。
用法・用量を守って正しく飲み、安全に活用しましょう。
飲む量を増やし始めた
メトホルミンを飲み始めた時、飲む量を増やした時は、低血糖をはじめとした副作用が起こりやすいタイミングのため注意が必要です。
ただしこの場合の副作用は一時的であり、メトホルミンを飲み続ければ1~2週間ほどで症状が改善することが多いです。
このタイミングで低血糖が起こっても、症状が軽ければその都度対処しつつメトホルミンは毎日しっかり飲んでください。
メトホルミンを飲み始めた時、飲む量を増やした時は、低血糖が起こりやすいことを念頭に置いて体調の変化に注意しましょう。
②シックデイや食事しない時
メトホルミンは、シックデイや食事を取っていない時に飲むと副作用のリスクが高まります。
シックデイとは、糖尿病の人が食事を取れないほどの体調不良になっている状態のことです。
空腹時はすでに血糖値が低くなっています。
その状態でメトホルミンを飲むと、メトホルミンの作用によりさらに危険なレベルまで血糖値が下がってしまうのです。
食事を取っていないときはメトホルミンを飲むことを避けるか、ジュースやゼリーなどの軽いものでいいので少しでも胃に入れてから飲んでください。
ただ、体が弱っていると低血糖や副作用が起こりやすくなるので、体調不良の時は回復するまでメトホルミンを中止することがおすすめです。
シックデイや食事を取っていない時にメトホルミンを飲むことは、低血糖のリスクを高めるため危険です。
少しでも胃に入れられそうなら飲む、難しければ飲まないとして、状況に合わせて対応しましょう。
③他の医薬品との併用
メトホルミンと併用することで低血糖が起こりやすくなる医薬品があります。
それらの医薬品は以下の通りです。
・糖尿病用薬(インスリン製剤など)
→メトホルミンと他の糖尿病薬を併用すると、相互作用により低血糖を下げる効果が強まるため低血糖が起こりやすくなります。
なお、糖尿病薬のひとつであるα-グルコシダーゼ阻害剤と併用する場合は、必ずブドウ糖を持ち歩きましょう。
α-グルコシダーゼ阻害剤にはブドウ糖以外の糖分の吸収を遅らせる作用があるので、低血糖が起こった時にブドウ糖がないと回復が遅れてしまいます。
・β遮断剤(プロプラノロールなど)
→β遮断剤とは高血糖の治療に使用される降圧薬です。
この医薬品は、血糖値を上げる作用をブロックしてしまうので、低血糖が起こった時の回復を遅らせてしまいます。
さらに低血糖の初期症状を現れにくくしてしまうため、発見が遅れるリスクもあります。
また、漢方薬や市販の風邪薬、サプリメントなども、血糖値を下げる成分が入っている場合があり注意が必要です。
メトホルミンに併用禁忌薬はありませんが、併用することで低血糖が起こりやすくなる医薬品もあります。
併用する場合は、その医薬品にどのような作用があるのか調べておきましょう。
④過度のアルコール摂取
過度のアルコールはメトホルミンの禁忌であり、低血糖のリスクが高まります。
アルコールには、肝臓からのブドウ糖放出を抑制して血糖値を下げる働きがあります。
そのためアルコールを大量に摂取した状態でメトホルミンを飲むと、血糖値が下がりすぎてしまうのです。
また、過度のアルコールは、メトホルミンの重大な副作用である乳酸アシドーシスを引き起こす原因にもなります。
乳酸アシドーシスとは体内の血液が酸性に傾く疾患で、発症率は非常にまれですが重症化しやすいという特徴があります。
過度のアルコールは、メトホルミンによる低血糖や重大な副作用のリスクを高めます。
メトホルミン服用中にお酒を飲む時は、飲みすぎに注意して、自分にとっての適量にとどめましょう。
メトホルミンによって低血糖が起きた時の対処法
メトホルミンによる低血糖が起きたら、まずはすぐにブドウ糖を摂取してください。
その他の詳しい対処法は以下の通りです。
【症状が軽い場合】
すぐに糖分を摂取し、安静にしましょう。
最も吸収が早いブドウ糖10gを水で摂取することがおすすめです。
もしブドウ糖を持っていなければ、砂糖20gか、ブドウ糖を含んだオレンジジュース、コーラ、ファンタなどの清涼飲料水を150~200ml飲みましょう。
アメやチョコレート、洋菓子などは、吸収が遅いためこの場合は不向きです。
低血糖の症状は、これらの糖分を摂取すれば10~15分ほどで治まり回復します。
万が一症状が改善しなければ、再度同じ量の糖分を摂取して様子を見てください。
【症状が重い場合】
・糖分を補給しても症状が改善しない
・意識がもうろうとする
・けいれんが起こっている
・頭痛やめまいがする
上記の症状が起こっている時は、速やかに医療機関を受診してください。
なおこの場合、糖分を補給して多少症状が改善したとしても、念のため医師の診察が必要です。
症状が重ければ、自力で病院に向かうことは危険なので救急車を呼びましょう。
メトホルミンを飲んでいる間は、念のためブドウ糖を持ち歩くことがおすすめです。
また、低血糖の初期症状が起きても自分では気づけない場合があるので、あらかじめ周囲にメトホルミンを飲んでいて低血糖を起こす可能性があることを伝えておきましょう。
メトホルミンによる低血糖は、早い段階でブドウ糖を摂取することで重症化を防ぐことができます。
メトホルミンを飲む時は低血糖への対処法をしっかり確認しておき、症状が出たらすぐに行動できるように備えましょう。
メトホルミンによる低血糖のメカニズム
メトホルミンには血糖値を下げる作用があります。
ただメトホルミンの場合、血糖値を下げるホルモンであるインスリンの分泌を増加させることはないため、通常は低血糖になりにくいといわれています。
しかし、体調不良や食事を取っていないなどの理由で血糖値がもともと低い状態の時にメトホルミンを飲むと、メトホルミンの作用によって血糖値が危険なレベルまで下がってしまい、低血糖が起こるのです。
メトホルミンには血糖値を下げる作用があるため、血糖値が低い状態で飲むことは低血糖を起こす原因になります。
メトホルミンを飲む時は自分の体調や食事に気を配っておきましょう。
低血糖とは?
低血糖とは、血糖値が正常な範囲以下まで下がった状態のことです。
正確な定義はないものの、血糖値が70㎎/dL以下となった場合に低血糖とされることが多いです。
また、放置してしまうと危険な状態となり命に関わることもありますが、基本的には初期症状のうちにきちんと対処することですぐに回復する症状です。
まとめ
メトホルミンによる低血糖について、ここまで解説したことをまとめました。
- メトホルミンで低血糖が起こる可能性はあるが、他の糖尿病薬と比べると起こりにくい
- 糖質不足を避けることが低血糖の予防となる
- 低血糖の初期症状を自覚した場合は、早めの対応が重要
- 念のため、常にブドウ糖やラムネを持ち歩く
メトホルミンによる低血糖が起こった場合、早めに対処をすれば回復することがほとんどです。
低血糖が起こる原因や正しい対処法を確認しておき、安全にメトホルミンを飲みましょう。
Q&A
メトホルミンと低血糖に関連してよくある質問にお答えしました。
Q.糖尿病薬でメトホルミン以外に低血糖になりやすい薬は?
A. 一般的に、糖尿病薬の中で低血糖を起こしやすい薬は、スルホニル尿素 (SU) 薬とインスリンです。
この2つは血糖値を下げる作用が強いため、食事量がいつもより少なかったりほかの医薬品と併用した場合などは特に注意してください。
Q.手術前後にメトホルミンの服用を中止する理由は?
A. 手術前は絶飲食になることが多いためです。
食事を取らずにメトホルミンを飲むと低血糖のリスクが高くなります。
また、術後は腎機能が低下するため、メトホルミンの排泄がうまくできず低血糖を起こすこともあります。
手術前後は低血糖のリスクが高まるため、メトホルミンを中止しましょう。