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メトホルミンによる不妊治療について解説
メトホルミンは2型糖尿病だけでなく、不妊治療への効果も認められています。
「糖尿病の治療薬なのになぜ不妊治療にも使えるの?」
「メトホルミンによる不妊治療で保険は適用される?」
「不妊治療でのメトホルミンの飲み方は?」
といった疑問をお持ちではないでしょうか。
そこでこの記事では、メトホルミンの不妊治療に対する効果という観点から解説していきます。
メトホルミンによる不妊治療をお考えの人や、糖尿病の薬を飲むことに不安があるという人は、ぜひ最後までご覧ください。
メトホルミンの不妊治療に対する効果
メトホルミンによる不妊治療への効果は、多嚢胞性卵巣症候群における排卵誘発と、多嚢胞性卵巣症候群の生殖補助医療における調節卵巣刺激です。
多嚢胞性卵巣症候群の原因には、インスリン抵抗性や肥満が関係していると考えられています。
そこで、インスリン抵抗性や肥満の改善に効果のあるメトホルミンの使用が検討されたのです。
その後、臨床試験において有効性や安全性が確認され、効果が認められました。
多嚢胞性卵巣症候群の治療には、通常クロミフェンという排卵誘発薬が使用されます。
しかし、クロミフェンだけでは効果が不十分な場合はメトホルミンを併用します。
臨床試験でのメトホルミンとクロミフェンを併用した治療での排卵率と妊娠率を比較しました。
クロミフェンのみ | メトホルミンと併用 | |
---|---|---|
排卵率 | 49.0% | 60.4% |
妊娠率 | 23.9% | 31.1% |
この結果から、クロミフェン単体よりメトホルミンとクロミフェンを併用した場合の方が排卵率と妊娠率が高く効果的であることが分かります。
メトホルミンの効果によってインスリンが効きやすくなり、肥満の改善も期待できます。
そのため、多嚢胞性卵巣症候群の治療においてメトホルミンが併用されているのです。
なお、メトホルミンの効果については、別の記事でも詳しく解説しています。
こちらもあわせてお読みください。
メトホルミンの不妊治療への作用機序
メトホルミンの不妊治療に関係する作用機序は、以下の通りです。
・肝臓での糖新生を抑制する
・末梢(骨格筋や脂肪細胞)での糖の利用を促進する
これらのメトホルミンの作用は、インスリン抵抗性を改善します。
インスリン抵抗性が改善されると、多嚢胞性卵巣症候群での卵巣のアンドロゲン(男性ホルモン)産生の低下につながるとされています。
つまり、メトホルミンはインスリンが効きやすくなる作用によって、不妊治療への効果を発揮すると考えられているのです。
多嚢胞性卵巣症候群とは
多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)とは、卵巣で卵子が成長せず排卵しにくくなる状態のことです。
まだ全ての原因は明らかになっていませんが、肥満などによるインスリン抵抗性や内分泌系の異常などの要因が複雑に重なって引き起こされると考えられています。
多嚢胞性卵巣症候群では、月経の異常や男性ホルモン濃度の上昇、肥満、血糖値の上昇などの症状が現れます。
そして、定期的な排卵が起こらなくなるため不妊の原因となるのです。
このように、多嚢胞性卵巣症候群はインスリン抵抗性や肥満などの要因から、排卵に障害が起こり月経の異常や不妊の原因となります。
そのため、放置せず適切な治療を受けることが必要です。
排卵誘発とは
排卵誘発とは、卵子の発育を促して排卵しやすくする方法のことです。
排卵誘発は、排卵誘発薬を使用して多嚢胞卵巣症候群などの排卵障害や、月経不順がある人に対しておこなわれます。
また、排卵に問題がない人でも、受精率や妊娠率を上げるために排卵誘発を取り入れる場合もあります。
排卵誘発をおこなうメリットは、排卵を整えて妊娠しやすい体を作れることです。
その一方で、排卵誘発薬による多胎妊娠や女性ホルモンの影響で太りやすくなる可能性があるといったデメリットもあります。
多胎妊娠とは、双子や三つ子など2人以上の胎児を同時に妊娠することです。
多胎妊娠では、妊娠高血圧症候群や早産、低体重児、帝王切開分娩の増加などのリスクがあります。
排卵誘発は、世界的にも広く使われている安全な方法です。
しかし、副作用や多胎妊娠などのリスクもあるため疑問や不安に思うことがあれば医師に相談しましょう。
調節卵巣刺激とは
調節卵巣刺激とは、体外受精の際に卵子を複数得られるように卵巣を刺激する方法です。
通常卵巣からは毎月1個しか排卵されません。
しかし、この1個だけを採卵して体外受精をするのは効率が悪いです。
そのため、排卵誘発薬や卵巣刺激薬を使用して卵子を増やす目的で、調節卵巣刺激をおこないます。
調節卵巣刺激のメリットは、一度に複数の卵子を得られるため受精卵を増やせることです。
しかし、卵巣への負担や卵巣過剰刺激症候群(OHSS)を引き起こすリスクもあります。
卵巣過剰刺激症候群とは、排卵誘発薬の使用によって卵巣が過剰反応を起こして卵巣の肥大し、脱水や腹水などの症状が現れる疾患です。
重症化すると血栓症や多臓器不全により命に関わることもあります。
下腹部痛、下腹部の張りや圧迫感、悪心、腰痛、急激な体重増加がある場合は医師に相談してください。
調節卵巣刺激は、体外受精を効率的におこなえる方法です。
その一方で、卵巣過剰刺激症候群などのリスクもあるため、メリットとデメリットを理解したうえで治療に臨む必要があります。
メトホルミンは不妊治療でも保険適用になる?
メトホルミンは、不妊治療でも保険適用になります。
メトホルミンによる不妊治療で保険が適用されるのは、多嚢胞性卵巣症候群における排卵誘発と、多嚢胞性卵巣症候群の生殖補助医療における調節卵巣刺激です。
以前は、多嚢胞性卵巣症候群ではメトホルミンを使用する場合に保険は適用されず、自由診療で治療がおこなわれていました。
しかし、2022年にメトホルミンの多嚢胞性卵巣症候群への効果の有効性と安全性が認められ、保険適用の対象となったのです。
メトホルミンの多嚢胞性卵巣症候群に対する不妊治療は、有効性と安全性が認められた保険適用の治療法です。
保険適用となったことで、患者さんの費用の負担を軽減でき、治療の選択肢が広がりました。
メトホルミンの不妊治療での飲み方
不妊治療でのメトホルミンの飲み方は、以下の通りです。
・他の治療薬と併用して1日2~ 3回に分けて飲む
・1日の最大量は1500mgまで
メトホルミンは他の排卵誘発薬や卵巣刺激薬と併用したときに最も高い排卵率が認められます。
そのため、排卵誘発の場合は排卵誘発薬と、調節卵巣刺激の場合は卵巣刺激薬と併用することが推奨されているのです。
また、飲む量は通常1日1回500mgから始めて、患者さんが耐えられる副作用の程度を確認しながら1日1500mgを超えない範囲で増やしていきます。
そして、メトホルミンを飲んでいる期間中は卵胞の発育や基礎体温を観察し、排卵や採卵までに飲むことを中止する必要があります。
不妊治療でメトホルミンを飲むときは、医師の指示に従い用法用量を守って飲むことが大切です。
メトホルミンによる不妊治療はいつまで
メトホルミンを使用した不妊治療は、妊娠するまで続けられます。
メトホルミンによる不妊治療が妊娠するまでとされているのは、日本では妊娠中または妊娠している可能性がある人はメトホルミンの禁忌とされているからです。
ただ、海外ではメトホルミンは妊娠糖尿病の治療に使用可能とされています。
メトホルミンを使用することによって母体の体重増加や、妊娠高血圧症候群、胎児の新生児低血糖のリスクが低下したことも報告されています。
この報告を受けて、日本でも妊娠前に糖尿病の診断を受けていた人を対象に処方薬についての調査をおこないました。
しかし、インスリン製剤単体による治療を受けている人が多く、メトホルミンを飲んでいる人のデータは不十分であったため、妊娠中の使用についての安全性は確認できませんでした。
そのため、現状日本では妊娠中の使用は禁忌となっています。
妊娠した場合は、メトホルミンを飲むことを中止してください。
メトホルミンを不妊治療で使用するときの注意点
メトホルミンを不妊治療で使用するときの注意点は、以下の通りです。
・糖尿病を合併している場合は、糖尿病の治療を優先する
・基礎体温を記録する
不妊治療より糖尿病の治療を優先する理由は、血糖コントロールが良くない状態で妊娠すると、流産や胎児の先天的奇形の合併などのリスクが高くなるからです。
また、メトホルミンによる不妊治療では、排卵の有無を確認するために基礎体温を記録する必要があります。
期間は、メトホルミンを飲み始める1か月前~メトホルミンを飲んでいる期間中にかけてです。
これは、治療の過程で排卵や採卵までにメトホルミンを飲むことを中断するからです。
メトホルミンを使用した不妊治療では、十分な知識と経験のある医師の指導の下で行うことが重要になります。
信頼できる医師を見つけて、しっかりとコミュニケーションを取りながら治療を進めていきましょう。
メトホルミンを飲めない場合
メトホルミンを飲めない場合は、禁忌に該当するときです。
メトホルミンの禁忌を以下の表にまとめました。
メトホルミンの禁忌 |
---|
1.乳酸アシドーシスの既往歴がある人 |
2.重度の腎機能障害がある人 |
3.透析治療中(腹膜透析を含む)の人 |
4.重度の肝機能障害がある人 |
5.心血管系、肺機能に高度の障害(ショック、心不全、心筋梗塞、肺塞栓等)がある人、その他の低酸素血症を伴いやすい状態にある人 |
6.直近6ヶ月以内に脳梗塞、脳出血、心筋梗塞の既往歴がある人 |
7.脱水症の人又は脱水状態が懸念される人(下痢、嘔吐等の胃腸障害がある、経口摂取が困難など) |
8.過度のアルコール摂取者 |
9.重症ケトーシス、糖尿病性昏睡又は前昏睡、1型糖尿病の人 |
10.重症感染症、手術前後、重篤な外傷がある人 |
11.栄養不良状態、飢餓状態、衰弱状態、脳下垂体機能不全又は副腎機能不全の人 |
12.妊婦又は妊娠している可能性がある人 |
13.メトホルミンの成分又はビグアナイド系薬剤に対し過敏症の既往歴がある人 |
メトホルミンは、2型糖尿病の治療に広く使用されている安全性の高い医薬品です。
しかし、表のような既往歴や持病がある場合や、健康状態などによっては飲めないことがあります。
また、禁忌に該当していなくてもそのときの健康状態によっては、医師から飲まない方がいいと判断される場合もあります。
既往歴や健康状態などに不安がある場合は、事前に医師に相談しましょう。
まとめ
メトホルミンによる不妊治療についてまとめました。
- メトホルミンは多嚢胞性卵巣症候群に対する効果が認められており、不妊治療に使用される
- 多嚢胞性卵巣症候群の治療でメトホルミンを使うときは、他の排卵誘発薬や卵巣刺激薬と併用する
- メトホルミンによる不妊治療は2022年に保険適用になった
多嚢胞性卵巣症候群の治療法にメトホルミンの併用が追加されたことで、不妊治療の選択肢が広がりました。
メトホルミンを使用した不妊治療では、十分な知識と経験を持った医師のもとでおこなわれることが望ましいでしょう。
Q&A
メトホルミンと不妊治療についてのよくある質問にお答えします。
Q.メトホルミンは体重を増やしますか?
A. メトホルミンは、体重が増えにくい医薬品です。
メトホルミンは、以下の作用機序により体重が増加しにくくなっています。
・肝臓での糖新生を抑制する
・末梢(骨格筋や脂肪細胞)での糖の取り込み、利用を促進する
・腸での糖吸収を抑制する
そのため、肥満を伴う2型糖尿病の治療に使用されています。
なお、肥満ではない人にも有効です。
また、メトホルミンは糖尿病だけでなく、心臓病や脳梗塞の予防などにも有効であるという報告もあります。
このように、メトホルミンは体重を増やしにくく、心臓病や脳梗塞の予防にも効果が期待できる医薬品です。
Q.メトホルミンは妊娠中も使えますか?
A. メトホルミンは、妊娠中は使用できません。
日本では、妊娠中や妊娠している可能性がある人へのメトホルミンの使用は安全性が認められておらず、禁忌に指定されているからです。
これからメトホルミンを飲もうと考えている人で、妊娠中または妊娠している可能性がある人は、安全のためメトホルミンは飲まないでください。
Q.メトホルミンの排卵率はどのくらいですか?
A. メトホルミンを単体で使用した場合の排卵率は、29.0%という試験結果があります。
これは、多嚢胞性卵巣症候群の治療における排卵率を調査した試験での結果です。
この試験では、メトホルミン単体と排卵誘発薬のクロミフェン単体、メトホルミンとクロミフェンの併用の3つで排卵率を比較しました。
その結果メトホルミン単体では29.0%、クロミフェン単体では49.0%、メトホルミンとクロミフェンの併用では60.4%でした。
この結果から、メトホルミンとクロミフェンを併用した場合が最も排卵率が高くなることが分かります。
そのため、メトホルミンによる不妊治療では、他の医薬品と併用して治療をおこなうのです。
Q.メトホルミンは卵子の質に影響する?
A. メトホルミンによって、卵子の質の改善が期待できます。
その理由は、メトホルミンの作用によって糖代謝が改善されるからです。
卵子は糖をエネルギー源としています。
メトホルミンによって糖代謝が改善されると、卵子が良質な糖をエネルギーとして使えるようになるため、卵子の質の改善も期待されるのです。