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メトホルミンによる乳酸アシドーシスの機序|症状と治療法も解説
メトホルミンによる副作用のひとつに乳酸アシドーシスがあります。
乳酸アシドーシスは、メトホルミンを服用している人は必ず知っておくべき重大な副作用です。
そこで今回は、メトホルミンによる乳酸アシドーシスの機序や具体的な症状についてわかりやすく解説していきます。
他にも予防法や実際の治療法など、メトホルミンによる乳酸アシドーシスについての情報を幅広くまとめました。
メトホルミンを服用している方は、ぜひ最後までご覧ください。
- 乳酸アシドーシスとは
- メトホルミンによる乳酸アシドーシスの機序
- メトホルミンによる乳酸アシドーシスの初期症状
- メトホルミンによる乳酸アシドーシスの症状
- メトホルミンによる乳酸アシドーシスの治療法
- 乳酸アシドーシスの診断基準と検査値
- メトホルミンによる乳酸アシドーシスの発症頻度
- メトホルミンによる乳酸アシドーシスの発症リスクが高い人
- 過度の飲酒
- ヨード造影剤
- 脱水症
- 手術前後
- シックデイ
- メトホルミンによる乳酸アシドーシスの予防法
- メトホルミンの副作用と乳酸アシドーシスの違い
- 乳酸アシドーシスが起こったときの対処法
- まとめ
- Q&A
- Q.メトホルミンは糖尿病治療のほかにどのような効果がありますか?
- Q.代謝性アシドーシスとは何ですか?
- Q.ビタミンB1は乳酸を分解しますか?
乳酸アシドーシスとは
乳酸アシドーシスとは、血液中の乳酸が異常に増えたことにより血液が酸性に傾いた状態のことを指します。
メトホルミンによる乳酸アシドーシスの発症は非常にまれですが、致死率は30~50%と高く、症状が現れた時点ですぐに治療が必要になる危険な疾患です。
しかし、乳酸アシドーシスの初期症状は、メトホルミンの副作用である消化器症状との区別が難しいとされています。
そのため、メトホルミンを服用した後の体調の変化に十分注意することが大切です。
では、いったいなぜメトホルミンによって乳酸アシドーシスが引き起こされるのでしょうか?
次の項でその機序を分かりやすく解説していきます。
メトホルミンによる乳酸アシドーシスの機序
まず、メトホルミンがどのような作用を持っているのかについて解説します。
ビグアナイド系に分類されるメトホルミンには、肝臓における「糖新生」というブドウ糖をつくる工程を抑制して血糖値を下げる作用があります。
この作用により、糖尿病治療やダイエット・肥満への効果につなげているのです。
一方で、この糖新生では、ブドウ糖を作る工程で乳酸を消費しています。
そのためメトホルミンにより糖新生が抑制されてしまうと、乳酸が消費されずに体内で増加してしまうのです。
通常、体内の乳酸が増加してもそれに応じて肝臓が代謝をし、腎臓が体外に排出してくれるため、血液が酸性になるまで乳酸が増えすぎることはありません。
しかし、
・肝臓が代謝しきれないほど過剰に乳酸が増加してしまった
・肝臓や腎臓の機能が低下していて、乳酸を体外に排出することができなくなった
というような場合、体内に乳酸がどんどん溜まってしまい乳酸アシドーシスを発症してしまうのです。
乳酸アシドーシスは致死率が高いので、発症した場合すぐに適切な治療を受けることがとても重要です。
そのため、初期症状での発見と対処が必要になります。
では、乳酸アシドーシスを発症した場合どのような初期症状が現れるのでしょうか?
次の項で詳しく解説します。
メトホルミンによる乳酸アシドーシスの初期症状
メトホルミンによる乳酸アシドーシスの初期症状は以下の通りです。
・消化器症状(下痢や腹痛、嘔吐など)
・全身倦怠感
・筋肉痛
この中でも、特に消化器症状と全身倦怠感は、メトホルミンの飲み始めに起こる一時的な副作用に似ています。
そのため、現れた症状がメトホルミンの副作用なのか乳酸アシドーシスの初期症状なのかを区別することは難しいといわれています。
ただ、筋肉痛は乳酸アシドーシスの特徴的な初期症状なので、もし筋肉痛のような体の痛みを感じた場合は乳酸アシドーシスの可能性を疑ってください。
なお、乳酸アシドーシスを含めたメトホルミンの副作用については別の記事で詳しく解説しています。
軽度の副作用もありますが、乳酸アシドーシスのような重度の副作用もありますので、メトホルミンを服用している方は正しい知識を付けておきましょう。
メトホルミンによる乳酸アシドーシスの症状
乳酸アシドーシスが進行した場合の症状は以下の通りです。
・過呼吸
・脱水
・低血圧
・低体温
・昏睡
乳酸アシドーシスを放置してしまうと、初期症状から上記の症状に進行していき意識障害を起こし、最悪の場合命に関わります。
また、メトホルミンによって別の疾患が次々に引き起こされて乳酸アシドーシスが重篤化するケースもあります。
過去には、乳酸アシドーシス発症から低酸素血症を起こした症例が挙がりました。
なお乳酸アシドーシスは、症状が起きている原因によって種類分けされます。
その中でも、体内の酸素不足が原因となる種類が一番重篤になりやすいといわれているのです。
では、乳酸アシドーシスを発症した場合どのような治療が行われるのでしょうか?
次の項で実際の治療法を紹介します。
メトホルミンによる乳酸アシドーシスの治療法
メトホルミンによる乳酸アシドーシスの治療法は、
・メトホルミンの服薬中止
・酸素投与
・輸液(点滴)
・薬剤投与
・血液透析
などがあります。
乳酸アシドーシスは原因によって種類分けされるため、その種類や診断結果、また病状の重さにより治療法も変わってきます。
また、メトホルミンによって別の疾患が引き起こされ重篤化するケースも多いため、それぞれの疾患や優先順位に合わせた治療も行わなければなりません。
過去に発症した疾患や、現在の健康状態も乳酸アシドーシスの症状に関わるので、「過去に大きな病気をしている」、「健康診断で数値が悪い部分があった」などという人は特に注意してください。
乳酸アシドーシスの診断基準と検査値
乳酸アシドーシスの正確な検査と診断は、医療機関でしか受けることができません。
乳酸アシドーシスの診断方法は、主に以下の3つです。
・動脈血ガス、血清電解質
→血液の㏗(液体の酸性度を表す指標)を調べ、 血液が酸性に傾いているかどうかを確認します。
また、肺・心臓・腎臓と体液の状態も調べます。
・アニオンギャップ、デルタギャップの算出
→アニオンギャップとは、動脈血ガス検査から算出される、アシドーシスの種類を見分けるための指標です。
このアニオンギャップの値が高いと、乳酸アシドーシスである可能性が高くなります。
ちなみに、算出されたアニオンギャップと正常なアニオンギャップの差をデルタギャップと呼びます。
・血中乳酸濃度
→血液中にどのくらいの乳酸があるかを調べます。
これらの検査の結果、検査値が
乳酸濃度 > 5~6mmol/Lかつ動脈血ガスでpH < 7.35
となった場合、乳酸アシドーシスと診断されます。
また、ほかに併発している可能性のある疾患の検査も行い治療を進めるので、乳酸アシドーシスから回復するためには医療機関の受診が必要不可欠です。
そのため、乳酸アシドーシスが疑われる場合はすぐに医療機関を受診してください。
では、次に乳酸アシドーシスの発症頻度について解説します。
メトホルミンによる乳酸アシドーシスの発症頻度
メトホルミンによる乳酸アシドーシスを発症する確率は非常にまれで、メトホルミンを飲んでいる人のうち乳酸アシドーシスを発症する確率は10万人あたり数人程度といわれています。
実はこの確率は、メトホルミンを服用していない場合の乳酸アシドーシスを発症する確率とあまり変わりません。
この情報だけ聞くと、「乳酸アシドーシスの発症にメトホルミンはあまり関係ないのでは?」と思ってしまいますよね。
しかし、メトホルミンの服用による乳酸アシドーシス発症リスクが高い人たちも存在するのです。
いったいどのような人たちなのか、次の項目でまとめました。
メトホルミンによる乳酸アシドーシスの発症リスクが高い人
乳酸アシドーシスの発症リスクが高い人は以下の通りです。
・乳酸アシドーシスになったことがある人
・重度の肝機能障害の人
・重度の腎機能障害の人
・人口透析をしている人
・心血管系に高度の障害がある人
・肺機能に高度の障害がある人
・低酸素血症を伴いやすい状態にある人
・脱水症の人,脱水状態の恐れがある人
・過度のアルコールを飲んだ人
・ヨード造影剤で検査予定の人
この中でも、日常生活において身近な発症リスクが高い例について紹介していきます。
また、メトホルミン服用中の禁忌についてはこちらの記事で詳しく解説しています。
ぜひあわせてご覧ください。
過度の飲酒
過度のアルコール摂取は、メトホルミンの併用禁忌に指定されているほど乳酸アシドーシスの発症リスクが高い危険因子です。
アルコールにより肝臓における乳酸の代謝機能が低下することで、乳酸アシドーシスが発症しやすくなります。
また、アルコールには利尿作用があり、脱水状態につながります。
脱水状態も乳酸アシドーシスの発症リスクを高める原因の1つとされているため、飲酒をしたときはこまめに水を飲み対策を取りましょう。
通常は飲みすぎなければ問題はないのですが、適度な飲酒量は個人によって変わってきます。
普段お酒を飲まない人や弱い人、肝機能がもともと低めの人などは、メトホルミン服用中はアルコールを控えましょう。
メトホルミン服用中のアルコール量について、詳しくはこちらの記事で解説しています。
普段お酒を飲む人はぜひ参考にしてください。
ヨード造影剤
CT検査やMRI検査などでヨード造影剤を使用するときも注意が必要です。
ヨード造影剤は、使用することで一時的に腎機能を低下させるため乳酸アシドーシスの発症リスクを高めます。
通常は、検査前後48時間(当日も含む計5日間)メトホルミンを休薬することが望ましいとされています。
ヨード造影剤を使用した検査を受ける場合は、必ずメトホルミン服用中であることを医師に伝え、指示に従ってください。
メトホルミンと造影剤の関係については、こちらの記事で詳しく解説しています。
脱水症
脱水状態も乳酸アシドーシスの発症リスクが高くなる危険因子です。
水分が不足し脱水状態となると体内の血液量が減るため、全身の血行が悪くなります。
その結果、乳酸を代謝する肝臓をはじめとした内臓の働きが低下し、乳酸が体内にたまりやすくなり乳酸アシドーシスを発症してしまうのです。
・利尿作用のある医薬品や飲み物などと一緒にメトホルミンを服用するとき
・夏場の屋外作業
・長時間のスポーツ
など、脱水状態を起こしやすい場面では特にこまめに水分補給をし、体調の変化に注意しましょう。
手術前後
飲食物の制限や全身麻酔をともなう手術の前後も、乳酸アシドーシスを発症しやすくなります。
手術前後は体が弱っていることが多く、さらに飲食物の制限により栄養不良状態となっているためです。
また全身麻酔下での手術の場合、脱水状態になるリスクもあります。
手術におけるメトホルミンの休薬期間は、ヨード造影剤と同じ当日を含めた検査前後48時間とする医療機関が多いです。
ただしこの期間は個人差によって変わってくるため、必ず手術前に医師に相談し指示に従ってください。
シックデイ
シックデイとは、食事が摂れないほど体調が悪い状態を指す言葉です。
食事が摂れないため栄養不良状態なのはもちろん、体が弱っている、脱水になりやすいという状態のため、乳酸アシドーシスの発症リスクが高くなります。
シックデイのときはメトホルミンを休薬し、味噌汁やスープ、おかゆなどを摂取してできる限りミネラルや炭水化物の摂取をしてください。
また、脱水状態を防ぐため、体温付近に温めた水を1,000ml~1,500ml摂取してください。
メトホルミンによる乳酸アシドーシスの予防法
メトホルミンによる乳酸アシドーシスの予防法は以下の通りです。
①腎臓や肝臓、心臓、肺に病気のある人、透析を受けたことがある人は、メトホルミンを飲む前に必ず医師に相談してください。
また、過去に心不全や心筋梗塞、敗血症などの疾患にかかったことがある人も必ず事前に申し出てください。
②脱水を起こさないよう、こまめに水分補給を行い、脱水状態を防ぎましょう。
また、脱水が疑われる場合はメトホルミンを休薬し、ただちに水分を摂り安静にしてください。
③ひどい下痢や嘔吐があるとき、食欲がなく食事がとれないとき、熱がでているときなど、体調不良の時はメトホルミンを飲まないでください。
④過度なアルコール摂取は絶対にしないでください。
適量であれば問題ないのですが、アルコール量の適量には個人差があります。
そのため、自分にとっての適量を守ってアルコールを摂取しましょう。
また、もともと肝臓が悪いという人は禁酒をしてください。
⑤手術前や造影剤を使用する場合は、必ずメトホルミンを飲んでいることを医師に申し出てください。
⑥メトホルミン以外の医薬品を処方してもらったときや購入したときは、不安があれば医師や薬剤師にメトホルミンと併用をしてもいいのか相談してください。
⑦メトホルミン服用中は定期的に腎機能、肝機能の検査をしてください。
何らかの機能が低下していた場合、医師に相談してください。
メトホルミンの副作用と乳酸アシドーシスの違い
ここで、判断が難しいといわれるメトホルミンの副作用と乳酸アシドーシスの初期症状の違いについて解説していきます。
実際に、メトホルミンを服用したあと下痢や吐き気などの症状が出た場合、どのように判断したらよいのでしょうか?
メトホルミンを飲み始めたときに起こる副作用の消化器症状は比較的軽く、一時的にメトホルミンの服用量を減らしたり休薬したりすることで症状が和らぐことが特徴です。
一方で、服用を中止してもなお症状がひどく回復しない場合は、乳酸アシドーシスを発症している恐れがあります。
では、次の項で乳酸アシドーシスを疑った場合に取るべき対処法を紹介します。
乳酸アシドーシスが起こったときの対処法
下痢や吐き気、腹痛、筋肉痛などの症状が起こり乳酸アシドーシスの初期症状を疑った場合は、メトホルミンの服用を中止してすぐに医療機関を受診してください。
放置すると重篤化してしまうため、とにかく早い治療が必要です。
メトホルミン服用中、特に副作用が現れ始めたら、自分の体調の変化に十分注意しましょう。
まとめ
- 乳酸アシドーシスは血液中の乳酸が異常に増えて発症する
- 初期症状は消化器症状、全身倦怠感、筋肉痛がある
- メトホルミンの副作用と乳酸アシドーシスの初期症状は似ているので要注意
- 乳酸アシドーシスを予防するには造影剤、脱水、過度の飲酒を避ける
- 乳酸アシドーシスが疑われる場合はすみやかに医療機関を受診する
乳酸アシドーシスは、発症率は低いものの注意が必要な副作用です。
予防法についての知識をつけて発症リスクを抑え、安全にメトホルミンを服用しましょう。
Q&A
メトホルミンと乳酸アシドーシスに関連してよくある質問にお答えしていきます。
Q.メトホルミンは糖尿病治療のほかにどのような効果がありますか?
A.ダイエット・肥満に対する効果やアンチエイジング効果、また不妊治療に対する効果があります。
なお、不妊治療に対するメトホルミンの服用には保険が適用されています。
Q.代謝性アシドーシスとは何ですか?
A.代謝性アシドーシスとは、産生過剰や排泄低下によって体内の酸が増加する病態のことを指します。
なお乳酸アシドーシスは、この代謝性アシドーシスに分類されます。
Q.ビタミンB1は乳酸を分解しますか?
A.ビタミンB1は、乳酸を分解しエネルギーに変える手助けをする成分です。
そのため、ビタミンB1欠乏症になると乳酸を分解できず乳酸アシドーシスを発症することがあります。
また、ビタミンB1は過度の飲酒でも減少します。